11.3. 植物および動物のクローニング
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細胞の遺伝的な潜在能力
このことを確かめる1つの方法は、分化した細胞が脱分化して新たな個体の発生を開始することができるかどうか調べること
こうした遺伝的能力については、植物では容易に立証することができる
規模を大きくすると、単一の植物個体の細胞から数百から数千もの遺伝的に同一な個体であるクローンを得ることができる ランなどの植物は、実用レベルで商業的に増殖させる唯一の方法がクローニング 植物のクローニングが成功することから、植物では細胞分化によって不可逆的なDNAの変化が起こらないことが示される 動物の失われた体の一部が再び増殖する自然の過程
たとえば、サンショウウオが脚を失うと、切れた脚の付け根で特定の細胞が分化段階を逆転させて(脱分化)分裂し、再び分化して新たな脚を生成する 他の動物でも、特に無脊椎動物の多くは失った身体の一部を再生することができる また比較的単純な動物では、切断された体の一部が脱分化・再分化して新たな生物個体を発生することができる 動物の生殖型クローニング
動物のクローニングは核移植を用いて実施される
最初の核移植は1950年代にカエルの胚を用いて実施され、生体の細胞から抜き出した核を卵細胞または受精卵の核と置き換えた
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核を受容した細胞は分裂を開始する
細胞分裂を繰り返して正常な動物発生の初期段階である胚盤胞とよばれる約100個の細胞が中空の球を形成する この時点で、2つの目的に用いることができる
哺乳動物であれば、胚盤胞以降の発生には代理母の子宮に胚盤胞を着床させる必要がある こうして生まれた動物は核を供与した動物と遺伝的に同一なクローン
あらかじめ核を除去した277個の卵細胞と、特殊な処理を行った生体のヒツジの乳腺細胞とを、電気ショックを用いて融合させた
数日間の培養により生じた29個の胚を、代理母ヒツジの子宮に移植した
その胚の中の1個が、ドリーの誕生に結びついた
ドリーは遺伝学上の親である核の供与ヒツジとよく似ていて、卵の供与ヒツジにも代理母ヒツジにも似ていなかった
生殖型クローニングの実用例
農業の分野では、特定の望ましい性質を併せ持つ家畜をクローン化して、殖やすことができる
研究目的では、遺伝的に同一な動物は完全な「対照動物」として厳密な比較対象を必要とする実験に利用することができる
製薬会社は、医療に用いることを目的としてクローン化された動物を実験に用いている
ヒトの免疫的な拒絶反応を引き起こすタンパク質をコードする遺伝子を欠失したブタのクローンでは、ブタの臓器が移植を必要とする患者に用いられる日がくるかもしれない
絶滅が危惧される動物の補充
パンテンは野生の個体数がごくわずかとなっており、23年前に動物園で死亡したパンテンの凍結保存された細胞を用いて、あらかじめ核を除去したウシの卵細胞にパンテン細胞の核を移植した パンテンのクローニングが成功したことから、供与動物種の雌がもはや繁殖できない状態でも、子を得ることが可能とであることが示された
環境保護主義者は、クローニングは天然の生息地を保護する努力を損なう恐れがあるとして反対している
クローニングは遺伝的な多様性を増加させるものではなく、したがって絶滅危惧種の自然復元に役立つものではないと正しく指摘している
クローニングされた動物は受精した卵細胞から発生した動物に比べて不健康
ドリーは通常は老齢のヒツジにしか見られない肺炎の合併症に苦しんだ挙げ句、2003年に安楽死させられた
他のクローニングされた動物も、肥満、肺炎、肝不全、早期の突然死を引き起こしやすいなどの異常が認められている
ヒトのクローニング
さまざまな哺乳動物のクローニングが成功していることから、ヒトもクローニングできるのではないかという憶測が高まっている
批評家はクローニングに対して、現実的および倫理的理由により反対している
実際に、哺乳動物のクローニングは非常に難しく非効率的
クローニングされた胚のうちごくわずかしか正常に発生しないうえ、自然に誕生した動物よりも不健康であるようにみえる
倫理的には、クローニングによるヒトの胚の創造は、ヒトの胚盤胞の社会的な地位に関するやっかいな問題を引き起こす
治療型クローニングと幹細胞
生存する個体を生み出すことではなく、胚性幹細胞を作出することを目的としたクローニング 胚性幹細胞(ES細胞)
胚盤胞から作出される
発生の過程で胚盤胞内のES細胞は分化し、体を構成するすべての特殊化した細胞を生成する
初期胚から分離され、実験室の培養基の中で生育するES細胞は永久に分裂を繰り返すことができる 特定の生育刺激因子を含む適切な培養条件下では、ES細胞の遺伝子の発現パターンが変化し、特定の種類の細胞へと分化する
適切な培養条件が発見されれば病気に冒された臓器の修復に利用することが可能になるかもしれない
しかし、ES細胞を取り出すことにより胚が破壊されるため、治療型クローニングによる胚性幹細胞の利用には賛否両論がある
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成体幹細胞
成体の組織中に存在し、非分裂性の分化した細胞の交代要員の細胞を生成している
ES細胞とは異なり、分化の過程の中途にあって、関連のある一群の専門家した細胞だけを生成する
成体幹細胞の培養はES細胞よりもはるかに難しいうえに用途が限られるが、成功例がいくつもある
成体幹細胞の採取には胚の組織を必要としないため、ヒトの組織や臓器との置換を目指す研究もES細胞に付随する倫理的な問題を回避することができる
それでも、ヒトの健康に関する革新的な進歩を導く細胞はES細胞だけであると考える研究者もいる
臍帯血バンク
幹細胞の他の供給源として、誕生時の臍帯(へその緒)と胎盤から採取された血液がある この幹細胞は部分的に分化していて、その分化の程度はES細胞と成体幹細胞の中間
医師は臍帯に針を差し込んで1/4から1/2ほどの血液を採取し、幹細胞を取得する
採取した幹細胞は凍結されて、医療目的に必要とされるまで血液バンクに保存される
2005年には適合する提供者(血縁者ではない)の臍帯血幹細胞の注入により、通常は致命的な神経系の遺伝性疾患であるクラッベ病に冒された新生児を治療することができたと医師が報告した しかしながら、現在今手に臍帯血両方の試みはほとんど成功していない
現在では、米国小児科学会は既知の遺伝的リスクを持つ家族に生まれる新生児にのみ臍帯血療法を推奨している